アルマクと幻夜の月



「なら、こうしよう。――君がベネトナシュに来なければ、この国の衛兵から四六時中逃げ回る羽目になるよ。どこへ逃げても居場所が知れて、その自慢の足が壊れるまで逃げ続けることになる」


「……どういうことだ」


「君にどこにでも逃げられる自慢の足があるように、私にはどこまでも見通して君を見つけだす、自慢の目があるんだ」


それはつまり、従わなければ、キアンたちが兵にアスラの居場所を密告するということ。


「求婚した相手を脅すとは、素敵な紳士だな」


皮肉な笑みを作った唇から出た低い声に、キアンは「照れるなぁ」と、朗らかに笑ってみせる。


「そこまでしてあたしをベネトナシュに招いて、いったいどうするつもりなんだ。あたしに何をしてほしいのかさっぱりわからんが」


そこまで切羽詰まっているのなら、助けられることなら助けてやらなくはない。


そう思って、アスラは尋ねた。――が。



「それは、今ここでは言えない。先にベネトナシュへ来てもらいたい」


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