アルマクと幻夜の月
ふい、と、急に獲物に興味をなくした猫のようにゆるやかな仕草で前を向くと、今度こそ扉を閉めてしまう。
三人分の足音が離れていき、やがて聞こえなくなると、床に座り込んでいたキアンが深いため息をついて、そのまま仰向けに寝転がった。
「汚いですよ、王子」
「平気さ。旅の間にもうずいぶんとボロボロになってしまったし、今さらすこし汚れたくらいで変わりはないだろう」
「お召し物のことではありません」
そう言ったリッカの声音は硬い。
キアンは虚を突かれたように数度瞬きをすると、呆れたような蔑んだような、歪んだ笑みの形に、その形の良い唇を曲げた。
「君といい、アスラ姫といい、身のうちに魔を飼う者というのは、曲がったことが嫌いなようだ。……ま、あの魔人の男はどうだか知らないけど」
言って、キアンは起き上がった。