アルマクと幻夜の月
ぎい、と、重たい音を立てて、肖像画が壁に飲み込まれていく。
代わりに現れた闇を、アスラは同じ色の瞳でじっと見つめた。
王族の居室が往々にしてそうであるように、アスラの部屋にも非常時のための隠し通路がある。
その通路への扉が、父王の肖像画なのだ。
「本当はこんなもの、取り払ってしまいたいのに….…」
アスラがわざわざ肖像画に布をかけて隠している理由はそこにある。
――本当は父の姿など見たくもないのに、肖像画が扉の用をなしているので外すことができないのだ。
アスラは金の水差しをしっかりと左腕に抱えると、あらかじめ用意していたランタンを右手に持ち、隠し通路へ一歩踏み出した。
真っ暗な闇の中に、ランタンの中に灯るろうそくの火が頼りなく揺れる。
足元がぎりぎり見える程度の明かりしかないのに、アスラの足は迷いなく地下通路への階段を降りていく。