アルマクと幻夜の月
いつだったか――あれは、イフリートに初めて出会った次の日。
イフリートから、彼がソロモンの命に従いアスラの臣下となったと聞いて、ほんのすこし落胆したことがあった。
イフリートがアスラ自身を見てアスラに仕えると決めたわけではないことに。
王女として生まれたアスラは、いつだって「王女」だった。
疎外され、ないがしろにされても、アスラは「王女」以外になり得なかった。
だから、物心ついたときからずっと、アスラはただのアスラとして自分を見てくれる誰かを求めていた。
母以外に、そんな者はいなかった。
(叶いもしない望みだと、思っていたのになぁ……)
まさか、こんな年下の子どもに叶えられるとは思いもしなかった。
アスラは苦笑し、シンヤに手を伸ばすと、人差し指でその額をパチンと弾いた。