アルマクと幻夜の月
「あのさ、イフリートの兄ちゃんって、霊体を実体化……? してるんだよね? よくわかんねぇけど。てことは内臓とかねぇの? 中身どうなってんの?」
気色わる、と余計な一言を添えて尋ねたシンヤを軽く睨みながらも、イフリートは苦い顔で頷く。
「腹をさばいたことはないから、ない、とは言い切れんが……切っても血は出ないな」
そうしてイフリートはアスラの腰帯に刺さったジャンビーヤ(短剣)を引き抜くと、
アスラが止める間もなく、自分の手のひらを思いきり切り裂いた。
「うえっ、ちょ……っ!?」
奇声を上げて仰け反るシンヤの眼の前で、その傷口は血の一滴も流さず、みるみるうちに塞がっていく。
最初から傷などなかったかのように一瞬で綺麗になった手のひらを呆然と見つめるシンヤにかまわず、
アスラはイフリートの手からジャンビーヤをひったくった。