アルマクと幻夜の月
「何してるんだよ! 実際に切るやつがあるか!」
「傷もついておらぬし、痛覚もない。切っても問題ない」
「だからってなぁ!」
「何をそんなに……あぁ、わかった。勝手に短剣を使って悪かった」
「そういうことじゃないだろ馬鹿!」
憤然として歩調を速めるアスラの後ろで、
何を怒っているのかまったくわからない、という顔で、イフリートはちらりとシンヤを見下ろした。
すると、目が合ったシンヤが唐突に吹き出す。
「おい、なぜ笑う」と問うイフリートにかまわず、シンヤは堪えきれずクツクツと笑い続ける。
「……いやぁ、イフリートの兄ちゃんて、そんな迷い犬みたいな顔することもあるんだな! 珍しいもん見ちまったよ」
犬呼ばわりされて不快そうに眉をひそめるイフリートの隣で、シンヤは忍び笑いを止めようともしない。