アルマクと幻夜の月
諦めたような、呆れたような顔でイフリートがため息をついたとき、ようやくシンヤは息苦しそうに笑いを止め、
すこし先を行くアスラに聞こえないように小さな声で、「心配したんじゃねぇの」と言った。
「心配? 誰を?」
「そりゃあ、イフリートの兄ちゃんだろ」
「何故? 血は流れておらんし、傷もすぐに塞がったのに、か?」
心底不可解だとでも言いたげなイフリートの顔を見て、シンヤは再び吹き出した。
「……そんなの、いきなりジャンビーヤで手のひら思いきりぶった斬るんだよ?
傷が治ったとしてもさ、普通びっくりするし、痛くないのかとか、心配しないわけないじゃん」
当たり前だろ、と言うシンヤに、そういうものか、と、
イフリートは理解できないながら無理やり頷いて納得してみせた。