アルマクと幻夜の月
のろのろと首を巡らせて、イフリートは自分の左腕に抱きかかえた主人を見た。
「落ち着け、イフリート」
すこし青ざめたアスラが、それでも困ったような笑みを浮かべて、イフリートに言う。
弱々しい力で掴まれた手首から、体中を駆け巡っていた熱が消えていくような心地がして、イフリートは小さく息を吐いた。
――否、正確に言えば息を吐いてはいないが、生身の人間であった頃に息を吐いたのと同じ動作をした。
「ちょっと切れただけだ。大事ない。だからそんなに慌てるな」
な? と、気丈に笑ってみせるアスラを見下ろして、イフリートはその目を逸らした。
「……すまない」
弱々しい声で言ったイフリートに小さく頷いてみせると、アスラは首をめぐらせて、シンヤに捕まえられた子供を見た。