アルマクと幻夜の月
年の頃は十を超えたか超えていないか、というところだろう。
ぼさぼさの栗色の髪は肩に届く長さで、一見女の子のようにも見えたが、
黒一色の刺繍もないガラベーヤを着ているところを見ると男の子だろうか。
「……おまえ、名前は?」
ともすれば荒くなる息を押し隠して、アスラは問う。
「おい」と、心配そうな顔で呼ぶシンヤを目線で制して、アスラは少年の返答を待った。
「……父ちゃんの仇に教える名前なんてない!」
「あたしはあんたの父親なんか知らないよ。人違いだ」
「嘘つけ! おまえが魔人使いなのは知ってるんだからな! そこのでかい男はランプの魔人なんだろ!」
子犬のように甲高くわめく子供の声に、往来を行く者たちが不審な目をアスラたちへ向ける。
アスラが慌てて人差し指を唇の前に立てて、「静かに」と言っても、少年は相変わらずの声量で「隠したって無駄だ! さっき見たんだから!」と叫ぶ。