アルマクと幻夜の月
「一晩、マルダを見張っていてくれないか」
もしもマルダが水晶窟へ父親の仇を取りに行こうとしたら、止めてほしい。
そう言ったアスラにイフリートが頷いた。
しかし。
「それ、俺がやるよ」
アスラとイフリートの間に割って入るようにして、シンヤが言った。
彼にしては静かな声音に、アスラもイフリートも驚いたように黙りこむ。
「イフリートは姐さんの臣なんだから、ついててやんねぇと、だろ? それに、あいつ、なんか俺と似てるからさ」
そう言われて、アスラは思い出した。
そういえばシンヤも、母親を殺した領主に復讐しようと、命を投げ出そうとしていた。
それを止めて、小さなイタズラでうやむやにしたのはアスラだ。
(こいつは、あのときのことを今、どう思っているんだろう)
もしも、復讐しなかったことを後悔していたら――?
けれど、次にシンヤの口から出たのは思いがけない言葉だった。