アルマクと幻夜の月



従者は何も言わず、アスラの次の言葉を待っている。


その静かな瞳を見上げて、けれどなんだか照れ臭くなってしまって、アスラはすぐに目をそらした。



「あたしも、生きててよかったと思ってるよ」



ぼそ、とぼやくように伝える。


シンヤにとってのアスラが、アスラにとってのイフリートだ。


絶望の淵にあるとき、生きる道を示してくれた。


生きることを決める勇気をくれた。



だから、今がある。

シンヤの言葉に泣きそうになった今がある。



「感謝してる」



そう言って再びイフリートを見上げると、イフリートは憮然とした表情で嫌そうに眉をひそめて目をそらした。



「当たり前だ」



アスラと同じくぼやくようにそう言ったイフリートが可笑しくて、アスラは「照れてるのか?」と茶化す。


するとイフリートは「寝言は寝てから言え」と悪態を吐くが、それが照れ隠しかと思うとなおさら可笑しくて、アスラは声をあげて笑った。




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