アルマクと幻夜の月
厨房にどよめきが起こり、いち早く驚きから立ち直った者が叫んだ。
「アスラ姫だ。――こそどろ姫が出たぞ!」
その言葉でわれに返った者たちがアスラを捕まえようと手を伸ばす。
しかしアスラは蛇のようにしなやかにそれを避けると、猫のように身軽に窓から飛び降りた。
突然二階から降ってきた姫に、すぐ近くにいた庭師が驚いて腰を抜かした。
それに「邪魔して悪いね!」と声をかけ、アスラは王宮の一階にある自室へ走った。
自室の扉を開け、すぐに閉める。
肩で息をしながら、アスラは部屋の中に立っている人影に笑いかけた。
「ほら、ルト。取ってきたぞ!」
アスラがそう言って盗んできた果物を突きつけると、アスラの部屋にいた十歳前後の金髪の少年――ルトは、呆れたような顔をした。