アルマクと幻夜の月
アスラの記憶が正しければ、ここはシャムスの北隣にある街ジュルフの前領主であるマルワーンが管理している宿屋のはずだ。
夜中ではあるが、まだ開いている店は多くある。
アスラの不在に宮殿の者が気付く前に、急いで水差しを金に換えて、ナズリの薬を手に入れなくては。
アスラはろうそくの火を吹き消して、ランタンを地下通路へ降りる階段の一段目に置くと、そっと扉を開けて外へ出た。
頬を撫でる乾いた風が涼しい。
アルマクの夏は昼間の暑さは厳しいが、夜は涼しい。
その涼しさと、王宮の外にいるという状況が相まって、アスラは気分がよかった。
どこまでも自由で――どこまででもいけるような、そんな気がした。
そんなとき。