アルマクと幻夜の月
「君は何者なんだ?」
男はしつこく問う。
だが、もちろん第一王女だなどと答えられるわけがない。
隠し通路の出口があるなどと、言えるわけがない。
「……ただの、こそどろだよ」
言うが早いか、アスラは身を翻して駆け出した。
手当たり次第に角を曲がり、自分がどこへ向かっているのかもわからないまま、アスラは一目散に逃げていく。
息が切れ、疲れで足が動かなくなる頃。
背後に追いかける足音がないのを確かめてから、アスラはようやく足を止めた。
民家の壁にもたれて、肩で息をしながら、なんだかおかしくなってアスラは小さく笑う。