アルマクと幻夜の月
このままではどこかに売られるかもしれない。
ただそのことだけが混乱したままの頭にあって、ほかのことを考える余裕などなかった。
「はなせ! あたしに触るな!」
いくら力を込めてもアスラの腕で屈強な男にかなうはずもなく。
「大人しくしろ!」
怒声と共に頭に衝撃が走って、アスラは次の瞬間、地面に倒れていた。
倒れたまま、殴られたのだと気づくのに数秒かかる。
痛みよりも驚きが強く、呆然としていると、目の前で男が脚を振り上げた。
――蹴られる。
「誰か……!」
助けて、と、そう叫んだ、そのとき。