アルマクと幻夜の月
「はいはい。さすがは〝こそどろ姫〟です」
「なんだよー。『こそどろ』だなんて、人聞きの悪い」
口を尖らせたアスラに、ルトは肩をすくめた。
「『こそどろ』でなければ何なのですか。毎日毎日飽きもしないで厨房から食べ物を盗んできて。
給女たちの冷たい視線を受けながら、それをナズリ様のところへ運ぶぼくの身にもなってくださいよ」
「しかたないだろ?」
アスラは盛大に顔をしかめる。
「厨房のやつら、スルターナの息がかかってんだ。あたしがいくら頼んでも、あたしや母上にはちんけな食事しか出さない」
あの年増、と、アスラは吐き捨てる。
ルトは慌てたように「アスラ姫、いけません!」と咎めた。