アルマクと幻夜の月

*第一夜 6*

「……誰だ、あんた」


よろよろと立ち上がりながら、目の前の男を威嚇するように睨みつけ、アスラは問う。

目を閉じる前までは、そこにいなかったはずだ。

アスラに周囲を見渡す余裕など、もちろんなかったので、絶対とは言い切れないが。


「恩人に向かって、誰だ、とは。失礼な小娘だな」


耳に心地いい低い声で、男は言った。

その、聞くだけで心の鎮まるような、響き。


どこまでも神秘的な男だった。


後ろで一つに縛って右肩に垂らしたまっすぐな髪は、黒檀の黒。

その瞳は幻夜の満月のような淡い金で、彫りが深く整った顔は、人を挑発するような不敵な笑みを浮かべている。

年の頃はわからない。

年齢の読めない顔をしていた。二十の手前と言われると納得してしまうが、

三十も終わりと言われても、そんな気がしてしまう。
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