アルマクと幻夜の月
(帰りたくない、とは思ったけど……)
イフリートはどうしてわかったのだろう、と不思議に思いながらも、アスラは夜風を切る心地よさに目を細めた。
地上を見下ろすと、暗闇の中にぽつぽつと灯りが見える。王都には街道に所々篝火が焚いていて、空から見ると星の海のようだ。
夏とはいえ、アルマクの夜は冷える。だが、冷たい夜の空気も、今のアスラには自由の証だ。
「なあ、イフリート」
星の海の光を映して輝く瞳を、アスラはイフリートに向けた。
「ありがとうな」
少女にしてはすこし低く、どこか少年じみた声が、夏の夜空にそっと溶ける。