アルマクと幻夜の月
黒馬になったイフリートの表情は読めないが、「かまわん」と答えた声音は、心なしか穏やかだった。
笑みを浮かべて夜空を見上げた、アスラの眼に。
「….…あ、」
光が、一つ流れた。
「イフリート、見ろ!」
興奮しながら空を指差したアスラに言われて、イフリートが気だるげに首をもたげる。――次の瞬間、その眼が大きく見開かれた。
一つが流れたのを合図にするかのように、夜に浮かぶ光が次々に流れ落ちる。
「星が降ってるのなんて、あたし、初めて見た……」
アスラはキラキラとした瞳で夜空を眺めながら言う。イフリートは何も言わないが、その沈黙が不思議と暖かかった。
それきり、二人とも何も言わなかった。
星降る夜の空の中で、二人はしばらく黙ったまま、流れ落ちる光の群れを眺めていた。