アルマクと幻夜の月
亀甲紗越しでは宝石の夜もなにもない。
煌びやかな衣装も、美しいランプの灯りも、アスラにはぼやけて見える。
あるのはただ、退屈だけ。
アスラはのろのろと進む輿の中で、大きなあくびを一つした。
滑らかな絹の衣装に身を包み、金銀宝石の飾りを纏ったアスラは、
しかし粗野な中年の男のようにあぐらを組んで座っている。
「豚に真珠だな」
ふいに耳元で聞こえた声に、アスラはすかさず「うるさい」と返した。
アスラの肩には、豪奢な装飾と対照的に真っ黒な小鳥が停まっていた。
言うまでもなく、その正体はイフリートだ。