狙われし姫巫女と半妖の守護者


信じられないけど、ふたりが言っていたことと重なり合う。

すっと、引っ掛かりもなく記憶のピースが埋まっていく。

そして、あのお兄さんの辛そうな顔が思い出される。

私に、普通に幸せに生きろと言った。

あの時飲まされた小瓶の中の液体が、もしも、記憶を奪うものだったなら……。

だとしたら、あんななにも怖かった目に見えない化物の存在を、私の記憶から抜き取ってくれていたの?

だから私は、紫希のことも覚えていなかったの?

私が、ただ普通に生きられるように……?

急にのどが押しつぶされたみたいに苦しくなる。

目頭が急に熱くなって、視界が潤みだす。

なんにも教えてくれない彼に、不満だらけだった。

なのに、そんな私を、ずっとずっと見守ってくれていたっていうの?

噛みあわせた奥歯が、切なさに震えて鈍い音をたてる。


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