狙われし姫巫女と半妖の守護者
私は急いで立ち上がり、食ってかかる。
だって伝説に伝わる、悪を打ち払うような能力は、身に覚えがない。
「だから、“今は”まだだ。その来たるべき日はそこまで迫っている。ここまで理解したなら、自ら危険な行動だけはするな」
今は? 来たるべき日?
問いたいことが溢れて喉につかえる。
「凛! 凛! どこへ行ったんだ?」
どこか遠くから、急にお父さんの声が飛んでくる。
私は思わず瞬時に、身を、息をひそめる。
「下等なあやかしどもの妖術はとけた。外の明かりはもうそこに見える。まっすぐに帰れよ」
紫希の言葉を聞き辺りに目をやると、左にはわずかな月明りに照らされた境内が整然とひろがっていた。
さっきまではなにも見えなかったはずのに。
そして元の場所へと視線を戻すと、紫希の背中はなく、その先にはなにをも隠す闇が続いていた。
私は空を見上げ吐息をつく。
まるですべてが、悪夢のよう。
開けた森の上空では、青白く光る刀とそっくりにそった月が、冷たく私を見下ろしていた。