狙われし姫巫女と半妖の守護者
私はそんな想いをなにも知らない。
平和に育ったと思いこんでいた私にはわからない。
私は重い体で立ち上がり、ゆっくりと障子を開け放ち縁側に立つ。
緑の垣根は切れに私の腰ほどの高さに綺麗に仕立てられ、庭の隅では薄紅のハナミズキの細い木がいくつもの花をつけて彩っている。
平和な風景。
私はこんな景色しか知らなかった。
今みたいに太陽が空のまん中に浮かぶ頃には、真央と笑い合っていた。
でもこの世界の平和は今、きっとまさにここのように箱庭みたいなもの。
縁側からでも、草原の先の林のまたその先に、今日はくっきり見えている輝く白の漆喰壁。
漆黒の羽の色をした冠のような瓦屋根。
ここからでも首を後ろに傾けるくらい、空にも届きそうなほどに高い烏天狗の城。
あんなものにずっと見下ろされているここの人は、どれだけ怖い思いを抱えているのだろう。
私はつい目を逸らす。