狙われし姫巫女と半妖の守護者
そしてついに襖の合わさる音が響く。
私は重い頭をあげる。
紫希のいない縁側に、それは肌寒い風が通り抜けた。
木の葉を揺らし、ハナミズキの花をさらう。
私は思わず目で追った。
夜空をふわりと一息に駆けのぼっていく、軽やかな蝶の花を。
私は、あの人が美しく見上げていた月をそっと見上げた。
「ああ、なんでかな……」
声が不安定に崩れていく。
私は手首で涙を拭う。
戦は悲しい。
恋も、悲しくて痛い。
私はあの記憶の中のお母さんのように猛々しくなんかない。
今日、悲しみのどん底でようやく気がついた。
詫びようのないくらい助けてもらってしまっていた、彼を、好きになってしまっていたということに。
私に見える月は、彼の持っていた美味しそうなお酒に映っていたそれではない。
氷のように、青く、白く、凍てついた月だった。