狙われし姫巫女と半妖の守護者
彼は前を向いたまま、どこか遠くに呼び掛ける。
私は藍色の夜空に目を凝らす。
黒い翼たちはもう遠くに去ったというのに、たったひとつだけ、彼の頭上近くに、漆黒の羽が浮かんでいた。
空中に胡坐をかいて、いつものように軽そうな笑みを浮かべている男。
彼は、優雅に空中に浮遊しながら、ふわふわした黒い髪を掻きあげる。
「やっとクソ兄貴の無様な最期を見れるんだ。だからいてやるよ。弟がいてくれるなんていいだろ、クソ兄貴」
空から降る声は、子供のように無邪気に弾んでいた。
そんなことを言う響の瞳が星の如く夜空に煌めいた。
いつものように軽すぎる声なのに、どこか悲しみを纏ってしっとりと心に舞い降りる。
そんな響を、琴弥は鼻であしらい、私たちに手の平をさし向けた。
「ふん、好きにしろ。烏天狗の誇りを失ったヤツらとなんて戦えぬ。俺ひとりで十分だ。前総代の望み、この身をもって必ず果たす」
琴弥の光のない漆黒の瞳が揺れることを知らずに、私たちをとらえる。