狙われし姫巫女と半妖の守護者
けれど、九条くんはふいに眉をひそめて首を振った。
「でも、悲劇はここから始まるんだ。子供は妖怪の親から受け継いだ妖力をコントロールできず、奇妙な術を村人に見られてしまったんだ。噂は瞬く間に広がって、恐れおののく村人は、人間好きの穏やかな妖怪たちに乱暴をして追いだそうとしたらしい」
「そんなのひどい」
どんどん感情移入して聞いている自分がいた。
人間に害を加えることもなく、ひっそりと暮らしていた家族になんの罪もないはずだ。
聞いているだけで胸が痛み、膝の上で握り合わせた自分の拳に自然と力がこもる。
九条くんはテーブルに手をついて伏し目がちに話を続ける。
「そう、ひどい。だけどね、これじゃあまだ終わらないんだ。今度はこの騒動を嗅ぎつけた、妖怪の世界でも高貴な種族、烏天狗が現れた」
思わず立ち上がりかけた私。
イスのぐらつく音が、静けさに満ちた図書室中に大きくこだまする。
“烏天狗”
私の体の中に響いたのはその言葉だけ。
ばかでかい鐘を打ったみたいに、私の中を駆け巡る。