僕を止めてください 【小説】




 そんな風に見られていたことに僕はまた驚いた。首筋を嬲られながら、乳首に指が這う。止められない荒い息の中で、僕はそんなことを言う彼だからこそ言わなければいけないことをうわ言のように切れ切れに呟いていた。

「もともと…生きてる人に…興味ない…」
「ああ…だからか」
「だか…ら…?」
「君は屍体だけに集中してる。ほかの駆け引きや法医学教室の政治や、警察との関係なんて一切関知してないよな」
「ええ…わかるんですか」
「そういうやつを…俺は待ってた。だから惚れた」
「とにかく幸村さん…こっこんなことして…一年もしたら…し…死にますよ…あ…」
「心配してくれてありがとな…でも残念ながら…俺は…死なねーよ」

 いきなり脚を抱え上げられて、自分の体液で濡れたそこが幸村さんの硬いもので貫かれた。

「くあああっ!」
「もう一度イけよ」

 僕は初めて挿入されて感じた。貫かれるたびにちょうど前立腺の場所に亀頭が当たっている。そういう角度にわざとしているのかも知れない。また彼の右手が僕の性器を握った。

「はうっ…!」
「好きだ…君が好きだ」

 全身が痺れて意識が飛びそうになった。畳み掛けるように上下にしごかれると、前立腺の快感と合わさり、腰がガクガク震え始めた。初めての感覚だった。また僕は容易に昇りつめ、ほんの数分で絶頂を迎えた。

「あああっ! イクっ!!」
「おっ俺も…んんっ」

 二人ほぼ同時にイッた。なんだこれは…いままで感じたことのない感覚が全身を粟立たせていた。幸村さんが僕の身体の上に倒れこんだ。そして左右の手の指と僕の両手の指を絡めて合わせた。そして耳元で囁いた。

「一緒に…仕事してくれ…俺は君の解剖が好きだ…」

 その告白はとても不思議だった。業務連絡と愛の告白がごっちゃになってる。少なくとも僕の知識ではイッた直後に吐くようなセリフではないはずだった。

「好きなのは…僕自身ではないんですね…よかった…」
「君の解剖は…君自身だ…」

 不意に胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚がした。心臓に悪いことを言われ続けされ続けて、ついに狭心症にでもなったのだろうか。

 またしても…新しい。幸村さんはとても厄介で、見た目よりもずっと変な人だった。




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