僕を止めてください 【小説】
その夜はそのあと滅茶苦茶セックスしたという流れには一切ならず、いい大人で、且つ日々犯罪と戦って前線で奮闘している僕達は、同時に射精したあと一瞬寝落ちしていた。もう眠くて動くのもやっとで、シャワーを浴びた後ベッドに戻り、そのままなにもせずに裸で寝てしまった。
目が覚めるとカーテンの隙間から日差しが入っていて、この時期の日の出から考えてももう午前8時は過ぎているといった感じだった。裸ではあったがいつの間にか掛布団が被せられていて、首をひねって壁側を見ると、そこに他人が寝ていた。
寝起きの頭ではその人が一瞬誰かわからなかった。一気に目が覚め、心臓がバクバク言う中、昨日のことをだんだんと思い出してきた。そのうちこの人はなんで帰らなかったんだろうと面倒な気分になった。そして今日は土曜日で休日だったということにもようやく気がついた。道理で平日指定にセットしている目覚まし時計が鳴らないはずだった。ということは警察も刑事は日勤なので、緊急時以外は土日休み、この人も今日は休みなのだろう。
自分のベッドに誰かが寝ているというのは生まれて初めてだった。母親でさえ物心着いた時には別々に寝ていた記憶しかないのに。高校生の時のあのハードな夜に、一度だけ寺岡さんのベッドで隆と清く正しく一緒に寝たが、あれは他人のベッドであり、翌日気がついた時には隆はもう仕事に行ってしまってベッドにはいなかった。
首だけひねっているのも疲れるので、幸村さんの方に寝返りを打つと、布団に擦れた左手の手首がヒリっとした。痛っ…と思って手首をよく見ると、手錠を嵌められていた場所が真っ赤になって皮がところどころ剥け、一番圧迫されていたいたであろう手の甲の手首に近いところが手錠の形状に内出血していた。強姦の屍体によくある傷害部分を見ているようだった。