僕を止めてください 【小説】
お前にのめり込んだらホント不幸だよな…と別れ際に言われながら、僕はその大きい男の人の車を降りた。佳彦が帰ってしまったので、彼が代わりに送ってくれた。ドアを閉めてからランドクルーザーの運転席のウィンドウが開き、彼が顔を出した。
「おい、お前さ、松田と別れたら俺と付き合えよ。なんかあったら連絡しろよ。じゃな」
「ああ、はい、ではさようなら」
野崎…尾崎さんはそう言って去って行った。最近、知り合いが増える。佳彦のせいだ。
家に帰り、風呂に入る。今日起こったことを反芻した。
死にたいのか、僕は。
あんなに殺したいとか死にたいんだろとかいう言葉に反応するとは思わなかった。言われてみるもんだ、と思った。自分ではわからないことが多いものだと、佳彦との出来事を通じてなんとなく思った。
身体のあちこちにアザや擦過の傷がついている。風呂のお湯がしみた。鏡で見ると、平手打ちされた頬に赤い痕が残っていた。だが、夕飯の時に母親からそれを指摘されることはなかった。そういえば、僕は親から叩かれたことがない。それを思うと、親よりまだ佳彦や野崎さんのほうが、僕の中ではその存在にかすかに色が着いていた。
(愛されたいんだよ…あいつも、俺もな)
その言葉が不意に頭の中をよぎった。