僕を止めてください 【小説】
自分で逝くことを今まで想像したことがあったろうか? カッターで自分のペニスを切り取ろうとした時に、僕はそれを想像しただろうか? 自分の首を自分で絞めようと方法を模索していた時に、僕は自分で自分の熱を絶とうと思っただろうか?
もしかして…僕は…死にたい…のか…
チキチキチキ…乾いたような湿ったような不思議な音が暗い部屋に響く。どこをどうすればどんな風に逝けるか全部わかってる。だからここでこんな頼りない固定すら出来ない薄いなまった刃を握りしめて自分を傷つけたってどうにもならない。だけどそんなものすら握りしめて僕はいま、はっきりと自分をこの世から消す欲望にまみれ始めていることを感じていっている。死んでた僕は死ぬ必要がなかった。でも今は違う。まるで殺すために生き返らせたようなあなたの仕業だ。弄んだんだ。そして勝手に消えていった。恨むよ。なんでこんなひどいことを。帰り方がわからない。わかんないよ。
眠れない夜がずっと続いて、もうどうにもならなくなったある深夜、僕は不意に野島さんのことを思い出した。別れたから、電話していいのかな。無理やり教えられた電話番号に携帯から電話した。呼び出し音が鳴る。僕はそれを聞きながら思っていた。
抱いて欲しいな。なんでだろ。よくわかんないや。抱いてもらって…そうだ…彼なら僕を“屍体だ”って…言ってくれるかも知れないな。
それを思った途端、僕は胸を押さえて呻いていた。出て。出て。お願い。出て。なんでだよ…僕が生きてる人間に何を期待してるんだ?
(はい…誰?)
心臓がドクンと胸の真ん中で打った。僕は何を彼に言うのか、全く考えていなかった。