僕を止めてください 【小説】



「なぁ、岡本…無駄な努力をするなよ…こんな血まみれで…いつもいつもそうだ。抱く度になんでいつも血まみれなんだ。血のにじむような努力とか上手いこと言ってんじゃねーぞ」

 幸村さんは首筋からつい…と顔を挙げると、そう言いながら僕をじっと見た。無駄な努力と言われてその通りなだけに、腹の底から悔しさが溢れてきた。だが、状況的には間違っていない幸村さんの言うことを到底今は受け入れられなくて、受け入れられない自分が悶えているのが許せなくて、僕は視線を外し横を向いて幸村さんに抗議した。

「黙れ…無駄とか…言うな」

 怒気が少しは幸村さんに伝わったらしく、案外あっさりと謝ってきた。

「…まぁ…悪かったよ。岡本がそうしたいってのは知ってるさ。でもな、抱かれてよがらなければいいだけだろ? オナホでもさんざんよがって三回もイッてそれでもこんなに硬くして今さら何言ってんだよ」

 案外素直に謝りながらも、それでも事実を僕に突きつけるのだけは忘れない。それでも何度でも自分でイッて終わらせたかった。それをわかってくれてはいないのだ。

「貴方が来なければ…幸村さんが来なければ僕は…!」
「今日は来ちまったんだよ。すまんけど」
「来ない時なんかないでしょ!」
「いつかそんな日が来るかもしんねーし…不本意極まりないけど…その時に実験は取っとけばいいだろ」
「僕と関わらないでって…ずっとずっと言ってるじゃないか!」
「悪いけど嫌だね。俺は自分の好きなようにする。君も少し黙れ…」

 そう言うと幸村さんの唇がいきなり僕の口を塞いだ。唇の感触と息苦しさに気が遠くなりそうだった。舌が入ってきた。幸村さんはそれに合わせるように自分の股間の硬いものを僕の太ももの間に挿れて会陰に押し当ててこね回した。互いのくぐもった吐息が耳を犯し、淫靡な液体が互いの口の端を濡らした。僕は震えた。この絶望と性感と、いつの間にか慣れてしまっている幸村さんの身体の感触に僕は心底震えた。大きく息をつくと同時に幸村さんがうっすらと唇を離した。唾液が糸を引くほどの近さのその口腔に吹き込むように、諦めていない証に僕はすかさず拒絶の言葉を送り込んだ。

「…僕は、迷惑です」

 それをどう聞いたのか、幸村さんは少し目を細め、今度は僕の頬に性懲りもなく口づけて言った。 

「いいや、岡本。俺が死ぬリスクを君が避けるのはなんでだっけ? そもそも俺が自分のせいで死ぬことが辛くて、そんな目に遭いたくなくてそれが迷惑なんだろ?」

 そこまでわかってて自分が死なないつもりでいる危険性を把握してないのがこの人の最も愚鈍なところだ、と僕は苛立ちで奥歯を噛んでいた。どう願っても僕の危険性がいつキャンセルされるかなど、死神にしかわからないのに! 僕は苛立ちと共に要求をぶつけた。

「わかってたらちゃんと言うこと聞いてよ!」
「嫌だね。それで俺が早死したら、その辛さでお前も死ね!」

 今までとは違うその論理に、僕は一瞬唖然とした。










< 534 / 920 >

この作品をシェア

pagetop