僕を止めてください 【小説】


 再び起きた時、なぜかアラームは鳴っていなかった。カーテンを開けっ放しの窓の外はほんのりと雪あかりが照らしていて薄暗かった。嫌な予感がして携帯を慌てて見る。18時41分……なに?この信じがたい時間。午前9時に掛けたアラームを僕は寝たまま切ったんだろうか?それとも鳴らなかったのか?もしくは鳴り終わっても気が付かなかったとか? たしかにこのベッドは死んだように眠れるのはわかっている。絶望感から逃げたかっただけなのか、この1週間の疲れが出たのか、少なくとも起きなかったことだけがわかった。とにかく何がなんでも今日中に洗濯をすると決めていたので、なんとかベッドから抜け出した僕は、メガネを掛けるのも忘れて、5kgの洗濯機の最大限に洗濯物を押し込んだ。どうせ近所のコインランドリーは24時間だし、夜遅いほうが天気の悪い日でも乾燥機の空きがある。洗濯機が廻る音を聞きながら、今日初めての食事を摂ることにした。ちょうど夕飯の時間だった。寝起きで頭がボーッとしていて、いい感じに意識が曖昧で、自分が八方塞がりなことを忘れられていた。睡眠は偉大だ。

 食べ終わって食器を洗っていると、洗濯機のピーッピーッという作業終了を知らせる電子音が鳴った。洗い物を終わって時計を見ると20時だった。マンションの洗濯時間の上限ギリセーフだった。クリーニング店の大きなビニール袋に脱水された洗濯物をそのまま入れて、雪の街に出られるように着替えてコートとマフラーを装備した。コートのポケットに携帯と財布を入れ、久しぶりにスノーシューズを靴箱から出す。さすがの万能なローファーもこの天候にだけは向かない。大学に入学して初めての冬に、ローファーしか持っていなかった僕は、雪道で早速滑って転んで派手に膝頭を打撲した。おまけに丈の短い靴の脇から雪がどんどん入ってきて靴下はずぶ濡れ。次の日に量販店で店員に選んでもらって、それ以来冬になるとこのハイカットの雪靴が登場する。しゃがんで靴のジッパーを上げながら、乾燥機がこの時間でも空いていることを願った。

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