僕を止めてください 【小説】


 怖ろしい想像を投げ掛けたのちに、幸村さんはいつのまにか真顔で絶句していた。それを否定できる要素はひとつもない。だってそれは、僕がずっと言い続けていたことなのだから。僕がそうさせたようなものだ、と。しかし、させたようなもの、ではないと幸村さんは言っている。僕は無意識にそれをしている、その能力があるのだ、そしてそれはある種、能動的なものであると。そしてそれを否定する要素も見つけることは出来ない。僕の沈黙を塗り潰すように、幸村さんの訊問が再び始まった。

「なんでセックスが嫌いなのに拒否しねぇのか、不思議だったんだよ。主体性がないのかとか、言われたようにするっていうのか、どうでもいいからなのか、死んでるからなのか、ほんとわかんなかった。でもよ、拒否んなきゃみんな抱いて、そっから溺れてくわな、こんなエロくて受け身で不幸な身体してんだから。矛盾も甚だしいけど、犯して貪った挙句、お前を助けたいってみんな思うんだよ。不幸につけ込みながら抱いて、不幸すぎて助けたくなって、挙句ミイラ取りがミイラになる。お前を抱いてきた奴らはみんなそうだったろ? でも俺はその手には乗んねぇ…って言いてぇよ。だけど…なんなんだ……気がつきゃ俺はお前を貪って貪って…2回だ。2回も殺しかけた。俺もお前を助けたいんだ。それなのに……」

 そう言うと幸村さんはようやく僕を見た。

「もしかしてさぁ、お前を殺すわけもない俺が、お前の正気を奪うことで、間接的にお前に死ぬ機会を作ってるのか? これは他殺じゃないっていうのか? 自殺でもないよな……これでもしお前が頸動脈洞症候群で死んだら、不幸な事故って言われんだろ?」
「わからない……わかんない!」

 本当はわかっている。わかりたくなかった。もう耐えられない。自分がしてるかも知れないそのことを、今まで必死でお前は死神じゃないと言い続けていた人から聞かされるのが。なんという僕の身勝手。なんという自己中。その自分にも耐えられそうにない。

「自分でもわかんないのか、まぁそうだよな。でもよ、俺の言ってること、どう思う? 当たってるか、的外れなのか……俺にだって正解なんかわかりゃしねぇよ。だけどな、だけどこれがよしんば当たってるんだとしたら…俺は……それを今の今まで気が付かなかったんだってことになる。だとしたら…俺は既にお前の無意識の術中にハマってんじゃねーのか? 押しても引いてもコイツは心中はしなさそうだ、だったらヤリ殺されようって、そう画策してんのか。だってお前は1歳の時に失った機会をずっと追い求めてるんだろ?」


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