僕を止めてください 【小説】
清水センセのカウンセリングを受ける間もなく、僕はついに死神を辞めることが出来た。そもそも死神ではなかったのだ。これ以上何も言えることはなかった。もう意識を失っていたい。ごめんなさい。疲れすぎた。
すると、いきなり幸村さんの大きな手が僕の顎を掴んで自分の方を向かせた。
「死神より悪魔のほうがよっぽどマシだ。運命に従って命を刈り取っていくより、誘惑して堕落させるほうが何倍も扱いやすいわ。だけど悪魔だろうが死神だろうが、俺はその二択をお前にさせねぇよ。俺は死なんし、お前を殺さないから。俺はお前が好きなだけだからな。俺は俺の淋しさをお前で埋めようなんてこれっぽっちも思わないさ。清水さんはお前の渇望を叶える究極の存在なんだろうが……それなら俺はお前の渇望の根っこにある空虚をこれから埋め立ててやる。そしたらもうお前は自殺屍体でこれっぽっちも欲情することがなくなるし、ハリネズミのジレンマともさよならだ。だってお前は死ぬ必要が無くなるんだぜ?」
僕は眼を閉じた。意識が朦朧とする。
最悪だ。僕が悪魔であることも。幸村さんが諦めるのをやめたことも。
(ばれちゃった!)
小さい裕の無邪気な声が唐突に聞こえた。裕、おまえがやっていたの? 奈落の底に落ちていくような感覚の中、夢とうつつのはざまにいるみたいだった。
(これからどうするの?)
どうしようか。
(おとうさんとおかあさんがなんでしんだのか、しりたいなぁ)
それは……
(ぼく、ほんとうのことがしりたいんだ)
ダメって言ったら?
(だめっていわれたらねー……)
小さい裕はちょっとだけ考えて、無邪気に笑いながら答えた。
(ぼくがしんじゃえばいいんだ! そしたらみんなしぬよ! たかしもてらおかさんもさえきりくくんもしみずせんせもおかあさんも!)
選択肢は無かった。