僕を止めてください 【小説】
罪悪感とペナルティ
気がつくと、ソファの上だった。どこかで小さい電子音がピッ…ピッ…と規則正しく鳴っている。分厚い毛布が身体に掛けられていたが、どうやらズボンもトランクスも穿いていないような感覚が腰から下に感じた。
清水センセを目で探した。見つける間もなく、頭の上の方から声がした。
「裕くん? 起きたの?」
横になったまま目を上げると、僕の顔を覗き込んでいる清水センセが居た。突然、罪悪感が津波のように押し寄せてきた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……どうしよう……」
居たたまれず顔を両手で覆い、身体を横に向けて丸くなる。まるで、オーバードーズした清水センセみたいに。
「なんで? なにに謝ってるの? 大丈夫だよ、なんにも起きてない。なんにも」
「させた……誘って……」
「落としたこと?」
「ダメだったのに……絶対させちゃダメだったのに……」
「大丈夫だって!」
僕の両肩を強く掴んで、清水センセは僕の言葉を遮った。
「大丈夫だってば。僕は知ってるから。言ったでしょ? 裕くんのこと知ってるって」
「知ってるから……やっちゃいけないってわかってるのに止められなかった! だって先生はそれを僕のために……絶対…やっちゃう……じゃないか……僕がそそのかしたんだ……わかっててやった!!」
そう、あれほどまでに完璧に。思い出そうとすることすら背徳に満ちたあの完璧なプロセスを。
フフっと清水センセは微笑んで、顔を覆っている僕の手を握った。
「こんなに話せたら、もう外しても大丈夫そう」
腕時計型の何かがいつの間にか僕の手首に嵌められていた。彼がそれを外すと、さっきから聞こえていた電子音が止まった。
「……なんですか?」
「バイタルモニターだよ。ちゃんと準備してるでしょう? ほらこれ、スマホのアプリと連動して鳴るようになってるんだ」
「……どれぐらい失神してたんですか?」
「5分くらいじゃない?」
「たった5分……」
「5分は長いよ。普通は20秒以内で起きる。みんな死にたくないから怖くてすぐ起きるんだよ。でも裕くんはこれで死ねるって安心して多分、そのまま寝ちゃってるんじゃない?」
それ以上何を言っていのかわからず、言葉を失ったまま僕は丸まっていた。