僕を止めてください 【小説】
「君は、絶対にダメって思ってると思うけど、僕はしてよかったと思ったよ」
僕の言葉を待ってるような間があったが、何も言わないので、清水センセは続けた。
「僕は殺せるし、死なせないんだよ。わかってくれないかなぁ。医者なんだから生殺与奪は自由自在なんだって。最高でしょ? 君の仰るとおりにしてあげられるんだ。君が誘惑する人間の中で、最も優秀で最適な技術者なんだよ? わかってる?」
彼の再三の問いに、僕は微かに首を縦に動かした。
「わかってたら良いんだ。精神的に不安定だから信用が足りないのはわかってる。でも、裕くんのこととなると僕はちゃんとしてるんだからね。あのとき君が助けを求めてた。何もしないで済まされる状態でもなかったし。幸村さんなら抱いちゃうんだろうけど、僕はあれしか手段がなかった。初めて君を手に掛けた。映像じゃなくて初めて君が落ちる瞬間を見たよ。切なかった。君の顔が快楽ではなくて安心に満たされていて、生きてることが君をどれほど苦しいかって、あの顔見てわかっちゃって。それと同時に、あの男が君をどうしたかったのかわかった気がした。気がしただけ、なんだけど」
そう言うと清水センセは、返事の出来ない丸まった僕の肩に手を置いた。
「何度も殺したかった……何度も、何度も、生き返して、殺して、また生き返して、殺して、永遠に繰り返していたかった……のかなって」
言葉のない僕をあやすように、肩に置いた手をトントンしながら彼は独り語りを続けた。
「死んだ子を殺して何が悪いの? 彼はずっとそう言い聞かせていたんじゃないかな。そうしなければ、本当に誰かを殺しちゃうから。君を失いたくなかっただろうなぁ。でも、君は、その儚い望みをカンタンにぶっ壊したんだろうな、彼の本当の望みをいともカンタンに口にして」
そしてフフフと笑った。
「僕もこの手を離すのかって。君の首に掛けた手を、ね。そしたらなんだか可笑しくなっちゃった。やめるのか絞め続けるのか悩んでる自分に」
そして清水センセもそれきり黙った。しばらく部屋に沈黙が訪れた。彼は不意に立ち上がった。床を歩く音、キィという薪ストーブの扉を開ける音、薪を放り込んだのだろう。木のぶつかり合う音がしてしばらくすると、火が上がったのかパチパチと木がはぜる音がした。離れたところから彼が僕に聞いた。
「あ、洗濯したから。僕の服でいいよね?」
罪悪感の海で溺れている僕を気遣って、極めて平気な声で、返事もないのをわかって質問を投げる。それでも、いつ僕はここから抜け出せるのかが本当にわからない。
服を抱えて戻ってきた清水センセは、あっと言って立ち止まった。
「お風呂で流す?」
それを聞いて気がついた。匂いがするんだろうな。清水センセは言わないだろうけど。こんな丸まってる場合じゃない。匂いの元を落としてこなければ……
「……はい。お風呂借ります」
「ごめんね。気が付かなくて」
「いえ、僕の方こそ」