いつか本当の自分に出逢うまで
「そんな言い方しないでよ~これでも私、それで生活してるんだから~」
半分怒って半分笑いながら言葉を返した。ビール三杯目で、ホロ酔い気分だったのは確かだ。

「ごめんごめん!でもミリ、子供の頃いつも言ってたじゃん。言葉なんて、上っ面だけ取り繕ってたらどうにでもなるって~」
レイラはビールやらハイボールやらをぐちゃ混ぜに飲んでの五杯目だったかな…。かなり酔ってて、普段の思慮深さはまるでなかった。

「そうだけど~今回のエッセイはどうしてもそれが出来なくて…」
「なんでよ~、考え過ぎとちゃう?」
酔いが回ってるみたいで、レイラはケラケラと笑った。私も…

「そうだねぇ~そうかもしれないねぇ…」
と笑って答えた。

…あれから、考え過ぎてたのかも…と何度か原稿用紙に向かってみたけど、結局タイトルすらも浮かばず、今や完全にお手上げ状態。

そろそろ担当の三浦さんから、催促の電話がかかって来てもおかしくない頃だけど……
RRRRRR…
ビクッ!!

(きたーっ!?)
画面を確認する。やっぱり三浦さんだ…。

(どうしよ…出たくないけど、出ない訳にもいかないし…)
ゴクッと生唾飲み込んで、とにかく電話を手に取った。

「も…もしもし…」
「もしもーし、三浦です。お世話になります!ミサトさん、原稿できました?」

ミサトっていうのは私のペンネーム。本名は本城美里(ホンジョウ ミリ)。ミサトと読まずにミリと読む。
エッセイ募集に応募した時、ペンネームが思い浮かばなくて、とりあえず“ミリ”を“ミサト”と書いて出してしまった。以来、私の第二ネームはミサトという事になっている。

「こ…こんばんは。三浦さん…」
消え入るような声に、彼は何かを感じたように聞いてきた。

「元気ないですねー。風邪ひいたんですか?」
変に気遣ってくれる。やっぱり気付かれたかも…⁈

「…いえ、別に。具合は悪くないんですが…」
ますます声が小さくなっていく私の耳に、三浦さんの重い溜め息が聞こえた。

「ふーっ…」
悟られてしまったのかと、一瞬ギクリとした。

「…ミサトさん…ちょっと外で会いませんか?近くにファミレスありましたよね?三十分後に行きますから、何か頼んで待っててくれませんか?」
「えっ!?今からですか?」
「そうそう。僕今から社を出ますから。じゃあ後で」

ツー…
三浦さんは私の返事を聞く間もなく、通話を切ってしまった。

「どうしよ…。原稿できてない事、バレた…?」
焦って何か少しでも書くべきでは…と思うけど……ダメ。やっぱり何も思い浮かばないー―――
私はもうすっかり諦めて、Tシャツの上にパーカーを羽織り、部屋を出ていった。
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