いつか本当の自分に出逢うまで
五分後、ファミレスに着いたのは午後十一時過ぎ。
店内は仕事帰りのサラリーマンが二、三人と学生のグループが数人いるくらいで、静かなものだった。

「ご注文がお決まりになりましたら、お呼び下さい」
店員の言葉に、カフェモカを頼み頬杖をついた。
三浦さんが来るまでの時間はあと十五分。けれどその十五分間は、私にとって特別長かった…

A出版は、私のエッセイを一番最初にシリーズで取り扱ってくれた所。三浦さんとはその頃からの付き合いで、かれこれ半年位になるだろうか。編集者らしくなく、いつもTシャツとジーンズというラフな格好でやって来て、さくさくと仕事の話を進めていく。
多分、私と年はそんなに変わらない筈なのに、仕事がさばけてて、しっかりした感じの人だ。
いつも出来上がった原稿を読んでは、

「ミサトさんの文章は、読んでて気持ちが癒やされますね…。今回も良い出来ですよ」
と、必ず誉めてくれる。誉められると人間嬉しくて、つい頑張ろうって気になるから不思議。そんなこんなで、エッセイのシリーズは今回で二十回目を迎える事になり、その二十回目の記念のテーマが、
「恋と愛の違い」

(恋……ずっと以前、私の母親が中学生か高校生くらいの頃に、北海道出身の歌手がそんなタイトルの歌、唄ってたんだよね…)
自分のこれまでの人生には、全く無縁な言葉だっただけに考えつくものって言えばこの程度。ましてや、愛に至っては語る術もなく。
小学校から大学まで、ストレートの女子校へ通っていた私にとって、「レンアイ」は友達を作るよりも難しかった。
まず第一に、知り合うキッカケがない。何故なら、ずっと寮生活をしてたからだ。
小学部から高等部までの十二年間、ずっと…

「ミサトさん青葉女子大出身なんですか。すごいな、お嬢様なんですね」
三浦さんと初対面の時、彼の第一声はこれだった。

「お嬢様なんかじゃないです。私はただ、実家が遠くて通えないから寮に入ってただけで。ホンモノのお嬢様は皆、ご自宅から通っておられました」
世間の人は皆、勘違いしてる。青葉女子はお嬢様の集まる学校だって…。確かに、お金持ちのお嬢様も少なくないけど、私のように一般家庭の子供だっている。
私は自営業をやってる親の元に生まれて、幼い頃、街で見かけた青葉の制服がとても気に入り、それが着たいが為にワガママを言って、お受験させてもらった。
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