アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 彼を私の引っ越先に招待して一緒に長瀞で遊んだ。


でも、その後帰って来てないらしい。

何があったのか判らない。
だからそれを探り出したいと思っていた。




 彼は島の教会の前に捨てられていた。
どうやら、観光客が置き去りにしたようだ。


生年月日と名前入り迷子札を胸から掛けていた彼。


でも住所は記載されてはいなかった。


だから、迷子と捨て子。二つの意見があったそうだ。




 神父さんの知人に預けられた彼は町の宝になった。


優しくて穏やかな性格が島の人達を魅了したのだ。


私も、その中の一人だったのだ。




 今彼は何処で何をしているのだろう?

私は優し過ぎる彼が心配でならなかった。


だから、島にいる内に彼の情報を集めようと思ったのだ。


私は早速行動を開始した。




 彼は何故行く方不明になったのだろう?

今、何処で何……?


考えれば考えるほどに辛くなる。


彼は私に約束してくれた。
島でずっと待っていてくれると。


私に黙って彼が何処かに行くはずがない。
そう思っていたからだ。




 私は島の人達に彼の手懸かりを聞いて回った。


彼を育ててくれ人ならば何かが解ると思った。

そして、彼が島に戻る途中で奇跡的な出会いをしたことを知った。


彼は彼を捨てた母親と再会していたのだ。


でもそれ以来、行くがた不明になってしまったそうだ。


でもきっと何処かで幸せにやっているんだろう。

そう思っているそうだ。


慈愛溢れる彼に、母親も心を癒されている。

私もそう思うことにした。


(それにしても歳を取ったな。彼が支えだったからな)

オバさんを見てそう思った。





 私の目の前には本土へと続く海がある。
きっとこの向こうに彼がいる。


私は帰ろうと思った。
本当は此処に残り彼を待ちたかった。


でも、私は彼と離ればなれになる前に二人だけで教会の祭壇の前に跪いたことを思い出した。


(どんなに辛くても、悲しくても前に向かって歩いていくよ。貴方との約束だから……)

それは彼と一緒に考えた誓いの言葉。


何時も心の中でで唱えようと約束した……


私は蒼い海に向かって、あの日と同じように今は離ればなれの恋人に誓った。



< 10 / 179 >

この作品をシェア

pagetop