アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 母はもう一度父に、車で送ってくれるように説得していた。

それでも父は冷静だった。


「時間ないぞ。ほら早く行け」
そう言いながら、朝刊に目を通した。


昨日、私がイベントに一人で出掛けたことが気にくわないようだ。

父にしてみたら、帰って来てやったんだと言う思いがあったのだろう。

でも、そのタイミングが問題なのだ。

それなら素直に寄り道しないで帰って来れば済むことなのに……

クリスマスを楽しんでから家族でイベントに出掛けられたらのに。


そう……
私はあくまで、あのキャンドルツリーイベントにこだわっていた。

本当は家族で楽しみたかったのだ。
清水さんの一家のように。




 私は逆らえなかった。


「分かった。じゃあ行って来るね」
そう言ったのは、父に対する意地だった。


自転車なんかで行ける筈がない。
それは解っていた。
それでも私は、サドルにまたがった。




 覚悟はしていた。
どんなことがあっても会場にたどり着こうと思っていた。


ハンドルが雪に取られ何度も転ぶ。
半べそをかきながら、それでも前に向かった。


私の長い長い戦いが始まった。

遂に自転車を支えながら歩き出した。

それでも又ペダルを漕ぐ。

半ばヤケクソだった。
容赦なく降り積もる雪。
私は空を見上げては白いため息をはいた。


国道に出るまでその状態は続いた。
驚いた事に国道脇の舗道には、既に幾つかの自転車の轍があった。

私は出来る限り其処を通ろうと思った。




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