アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 その店の自慢はその薪ストーブのオーブンで作った焼きリンゴ。

どうりでシナモンの良い香りがするはずだ。

でも私はニッキと言った水野先生にもっと親しみを感じていた。


「焼きリンゴは体の芯から温めてくれるから」
水野先生はそう言いながら小さなスプーンを私の口元に運んでくれた。


「あーん」


(――ん? もう子供じゃない……)

そう思いながらも、私は素直に口を開けた。


紅玉の芯をくり抜いた部分から香るバターとシナモンシュガー。

その絶妙なハーモニーに私は舌鼓を打った。


「あちっ」
思わず出た言葉。

口よりも胸の奥で感じた、水野先生の優しさのせいだった。




 私の手は又……
小刻みに震え出した。

焼きリンゴの温かさより、水野先生の暖かさに動揺したためだった。

封印した初恋。
叶わない恋なのだから……

幾ら……
水野先生の中に王子様を感じても。


水野先生は持っていた焼きリンゴの皿を置いて、私の小さな手を大きな掌で覆った。


(――あっ、そんなことしないで。もっともっと苦しくなる)


私は遂に泣き出した。

一旦止まった涙が又溢れ出していた。




 「本当は、抱き締めてやりたい」

でも水野先生は思いがけないことを言った。


「さっき此処へ来る前に、佐々木の通って来た道を見たんだ。雪の中にタイヤの跡が……」

水野先生は泣いていた。


「俺気付いたんだ。同情じゃなく、本当に佐々木が好きだったってことに」


(――えっ!?)

一瞬耳を疑った。


(――ねぇ先生、今何て言ったの? お願いもう一度、もう一度聞かせて!)


「俺……最初に逢った時から、どうやら佐々木に恋をしていたようだ」


「学校の昇降口?」
私はあの日の光景を頭の中に思い浮かべた。


「違うよ。渋谷だよ」





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