アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 さっきの市営のホールは一階に図書館があった。
水野先生は私を其処へ誘った。

勿論みんなが帰った頃を見計らって。


『私は父と同じAB型で、母はO型のはずです』
そう言ったからだった。




 水野先生が見つけ出した血液型の本。
其処には衝撃的な内容が書かれていた。


「つまり、私は父の子供じゃないのね」

水野先生は頷いた。


「AB型とO型の親の間にはAB型の子供は出来ないんだよ。何故なら、AB型の遺伝子がないから。それが一般常識だ」




 「だから父は……」
私は又泣いていた。


「でも解らないよ。佐々木の血液型が本当にAB型だったらの話だ。それにさっき、『母はO型のはずです』って言ってたろ?」


「でも、確か十年前に検査したって母が」


(――十年前!?)

私は又思い出した。

あの父の暴力を……


私の記憶はあの暴力から始まった。
そうだ確かに五歳だった。


父は私を本当の子供じゃないと知ったんだ。

だからテレビのチャンネルを変えた私に腹を立てて殴ったんだ。


十年前。
父方の祖母が倒れて緊急手術が行われた。
末期癌だった祖母は大手術に耐え、翌年亡くなった。
その手術の輸血のために血液型の検査をしたのだった。

その時にきっと知ったのだろう。私が本当の娘ではないことを。

ABの父親からはABの子供が産まれない事実を……




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