アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 「確か一人だけ……佐々木だったのか。そうか。それほど痛みが深いのか……」

急に黙った水野先生を見つめた。

水野先生も私を見ていた。

その頬を涙が落ちる。
それを私に悟られないように拭った。


水野先生は何も言わず、予約するためのメモ用紙を一枚貰ってそれに書き始めた。


「髪の毛・タバコの吸い殻・チリ紙……」
私は横でそれを読んだ。
泣きたい気持ちを押し殺して……


「コレを準備して。出来るだけ多くの材料をあつめるんだ。ご両親のも必要になるからね」

私は渡された紙をポケットに入れた。




 雪で濡れたコートはいつの間にか乾いていた。


市営のホールの駐輪場に自転車を取りに行き、来た道を又戻った。
今度は水野先生と一緒に。


雪はもう止んでいた。




 家に帰った時、父は居なかった。
私が自転車で出発した後で車でパチンコへ出掛けたようだ。


「『これ位なら大丈夫だ』そう言って出掛けたわ」

母が呆れたように言った。


「あらっその人は?」


「私の学校の先生。送ってもらったの」
思わず嘘を言った。


「水野孝之と申します。携帯を持っていないと聞いたもので心配になりまして」
水野先生も話を合わせてくれた。


「じゃあ佐々木。俺はこれで帰るから」


「はい。本当に今日はありがとうございました」
私はポケットを触りながら明日の合図を送った。




< 116 / 179 >

この作品をシェア

pagetop