アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 「ありがとう先生」
私は水野先生の手をそっと掴んだ。
その途端、指を絡んできた。


(――ドキッ!!

――ドキッ!! ドキッ!!

――ドキッ!! ドキッ!! ドキッ!!……)

私の胸は早鐘のように鳴り響いた。


「今日はデートだよ。だから楽しもう」

水野先生が慣れないウインクをくれる。


「ぎこちなーい」
私は笑った振りをして、涙と動揺を隠した。




 「佐々木。俺実は、離島に行こうと思ってたんだ」

水野先生は意外なことを言った。


(――そうか……。そのために清水さんのお父さんに会いに来たのね。

――そんな貴重な時間を私のために……)


「離島って、清水さんのお父さんが教鞭を取っていたと言う?」

敢えて聞いてみた。

水野先生は頷いた。


「だから中学の単位も必要だったんだ。叔父さんから頼まれた訳じゃないけど。行ってみよう思ってた。でも……でも、佐々木のことが放っておけなくて」

絡めた指に力が入る。

そのことだけで、本当に愛されていると実感した。


水野先生は迷っていた。
離島に行くか否かを……


だから、清水さんのお父さんを訪ねたのだ。

あのクリスマスイブのキャンドルツリーイベントの時に、訪ねて行ったそうだ。

其処で泣いている私を見たのだ。
だから余計、私のことが心配になったらしい。


だから……
あの市営のホールに居たのだ。

彼処で……
私を気遣いながら待っていてくれたのだった。


偶然じゃなかった。
必然だった。
だから……
私は今、水野先生と一緒にいられるんだ。




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