アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 敬老の日の前に、一人で降りた駅に今日は二人で居る。

そのことで少しは不安が払拭された。
やはり水野先生の力は私には大きかったようだ。




 駅前からタクシーで、やっと私の産まれた産婦人科の前までやって来た。

張り紙を見ると年末年始の休みは明後日からだった。


「危なかったな。ギリギリセーフ」
笑っている水野先生を見て私はホッと胸をなで下ろした。


(――大丈夫。大丈夫。先生が付いていてくれる。

――怖いよ。本当は物凄く怖い。

――もし父の子供でないと解ったら……

――もし両親の子供でないと解ったら……)

私は手は自然と、水野先生に言われて用意していたDNA鑑定材料へといっていた。




 病院に入ると簀の子があり、その横にシューズボックスにスリッパが並べられていた。

私はそれに履き替えるとすぐ受付に行った。


「どうなされました? 妊娠ですか?」

流石に産婦人科らしい。
そうは思ったが、急に恥ずかしくなり俯いた。


「保険証はお持ちですか? 御座いましたら提出をお願い致します」


「持ってる?」
小声で水野先生が聞く。

私は頷いた。


「その方がきっと聞きやすいよ」
耳元で囁く水野先生。
私は何故か緊張して、手が震えていた。
でも……
それはそうだと納得して、財布から保険証を取り出して看護士に渡した。




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