アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
「どうしました? 妊娠ですか?」
当然のことのように産婦人科医も聞いた。
「いえ、私まだヴァージンです」
私は素直に答えた。
「それでは何故此処に?」
そこでやっと本題の、乳児取り違え事件がなかったかを聞いた。
勿論身に覚えがないと産婦人科医は怒った。
それでも、私が父の発言で悩んでいることを話すとやっと納得してくれた。
「後にも先にも、そのようなことはなかったよ。そうか君は佐々木恵さんの娘さんか」
産婦人科医は懐かしそうに私を見つめた。
「どうりでさっき何処かで見た人だと感じた訳だ。君はお母さんにそっくりだね。特にその目元。何か心配事でもあるのか、今の君と同じように辛そうな目をしていたよ」
「二度ばかりお母様にお会い致しましたが、本当にそっくりでした」
(――二度? あっそうか。澁谷も……か?)
「君はなかなか産まれなくて、結局帝王切開だった」
「はい。母から聞いてます。点滴を七本も打ったってことも」
陣痛促進剤を使用しても私はなかなか産まれなかったらしい。
予定日より、一カ月近く遅れたと母に聞いていた。
だから母は言ったそうだ。
『女の子でもいいよ。私だけで、私だけでも育ててあげるから』
と――。
私が女の子だと母は感じたのだ。
だから敢えて言ったのだ。
『女が産まれたら、帰って来なくていいよ』
実家に帰って出産する母に向かって、父がそう言ったから。
私に負担を掛けさせないために……
(――だったら何故私を連れて帰ったんだ?
――私と母を……苦しめてもて遊ぶためか?
――母の目が暗くなるはずだ。
――私と同じようになるはずだ)
父に対する怒りが又湧き上がって来た。
それを止めることも出来ず、私は其処に居た。
当然のことのように産婦人科医も聞いた。
「いえ、私まだヴァージンです」
私は素直に答えた。
「それでは何故此処に?」
そこでやっと本題の、乳児取り違え事件がなかったかを聞いた。
勿論身に覚えがないと産婦人科医は怒った。
それでも、私が父の発言で悩んでいることを話すとやっと納得してくれた。
「後にも先にも、そのようなことはなかったよ。そうか君は佐々木恵さんの娘さんか」
産婦人科医は懐かしそうに私を見つめた。
「どうりでさっき何処かで見た人だと感じた訳だ。君はお母さんにそっくりだね。特にその目元。何か心配事でもあるのか、今の君と同じように辛そうな目をしていたよ」
「二度ばかりお母様にお会い致しましたが、本当にそっくりでした」
(――二度? あっそうか。澁谷も……か?)
「君はなかなか産まれなくて、結局帝王切開だった」
「はい。母から聞いてます。点滴を七本も打ったってことも」
陣痛促進剤を使用しても私はなかなか産まれなかったらしい。
予定日より、一カ月近く遅れたと母に聞いていた。
だから母は言ったそうだ。
『女の子でもいいよ。私だけで、私だけでも育ててあげるから』
と――。
私が女の子だと母は感じたのだ。
だから敢えて言ったのだ。
『女が産まれたら、帰って来なくていいよ』
実家に帰って出産する母に向かって、父がそう言ったから。
私に負担を掛けさせないために……
(――だったら何故私を連れて帰ったんだ?
――私と母を……苦しめてもて遊ぶためか?
――母の目が暗くなるはずだ。
――私と同じようになるはずだ)
父に対する怒りが又湧き上がって来た。
それを止めることも出来ず、私は其処に居た。