アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 水野先生の家はお屋敷だった。
旧家なのだ。


江戸時代て言えば、何処やらの藩主の息子。
世が世であれば、水野先生は王子様だった。


本物の王子様だったのだ。




 高校時代には、現在の王子としてモデルの依頼もあったほどだ。

でも、そのことを伏せてチャレンジしたそうだ。


長身の上に、端正な顔立ち。

抜群のスタイル。
たちまち人気モデルの仲間入りを果たしたのだ。


『彼奴は駄目だ。ライバルが多過ぎる……』

担任の先生がそう言った訳は、それだったのだ。


元高校生モデル。
その肩書きはイヤでも付いて回る。
水野先生は本当は失敗したと思っていた。

そうに違いない。


だから、誰とも交際はしてこなかったのだ。




 連絡を受けて水野宅に集合した親戚連中は言いたい放題のことを言った。


祖父が残した遺言。

それにはあの島を守ることと、行方不明の姫の子孫の姫を次男坊と結婚させること。
だった。




 本当なら、私の父がその運命を背負うはずだったのだ。
だから父は離島で教師になって、島の生活を守ることにしたのだ。




 「お前達が強引に結婚したからこう言う羽目になったんだ」


「………………」

親戚連中が遂に父と母を槍玉に上げた時、二人とも言葉を逸していた。


グーの音も出ないとはこう言うことかと悟った。




 「だから俺は彼女と離島に行こうかと……」

「もう、その手は通じない」

水野先生の言葉を遮るように親戚連中は突っぱねた。


「お願い致します。せめて、せめて彼女のDNAの結果が出るまで待ってください」


「DNA!?」

その発言に、慌てて水野先生は口を閉じた。




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