アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 親戚連中が水野宅から帰宅後に、伯母さんは懐かしいカステラをテーブルの上に並べた。

それは、私を喜ばすための魔法のお菓子だった。


これは伯母さんからこっそり聞いたレシピだ。


お風呂のお湯くらいの温度の湯煎で、玉子にグラニュー糖を加えた物をトロリとするまで泡立てる。

次に同じ温度くらいに温めた牛乳を少しずつ加える。

この中に振るった強力粉を三度に分けて加えて混ぜる。

粉っぽさがなければオッケイなのだそうだ。
フライパン全体にバター薄く塗り、オーブンシートを敷き詰める。

その中に生地を流して蓋をしてから、アルミ箔で覆いコンロの上に焼き網を乗せてその上でごく弱火で一時間弱焼くと絵本に出てくるようなスイーツが出来上がるのだ。


伯母さんは以前私が大喜びをしたことを覚えていてくれた。

それほどの優しい人だったのだ。


(だから綾ちゃん……親戚連中の発言なんて気にしないで、水野先生の胸の中に飛び込んでね)

私は本当に、二人の幸せを祈っていた。




 私はさっきの水野先生の発言で気になることがあった。
それはDNA発言だった。


「ところで水野先生。さっきのDNAって何?」


「……」

言葉を失った水野先生は傍にあった紅茶を飲み果たした。


「おい清水……水野先生はないだろう? 俺には孝之って名前があるんだ 」

それでも、平然と言い放った。



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