アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 「夢の中の俺は甲冑を着ているんだ」


「カッチュウ?」


「鎧、兜の事だよ」


「えっーーー。まるで時代劇みたい」


「ああ……、まさにそれだな。俺は川に流されているんだ。もがいても、もがいても深みにハマって身動きが取れなくてどんどん流されて……」

額に手をやり辛そうな水野先生を見ても、今の自分には何も出来ない。


私はもどかしくて自分自身に腹を立てていた。




 「叔父さんの居た離島では、平家の落人伝説があって……」


(えっ!?)
私はその途端、伯母から聞いた平家一門の話を思い出していた。


「壇ノ浦の戦いで敗れた平家は散り散りになった。命からがら島に逃げたそうだ。叔父さんの居た離島もそうだった。渋谷で会った時そんな話が出て……」

水野先生は車窓に目を移した。


「遺言か……」

確かにそう言った。
でも私は聞こえない振りをした。

余りにも水野先生が辛そうだったから。




 「島にも逃げたんですね。良く山奥で聞きますが」


そう言ってみた。
水野先生の言った遺言にどんな意味があるのかは知らない。
でも、怖かったのだ。
その意味を知るのが……

何故だか解らない……
ただそう感じていた。




 「戦ったのが海だったからね。すぐ近くにある島にも隠れたらしいけど見逃されたらしいんだ。あまりにも近すぎて、まさかと思ったらしい」



「灯台もと暗しですね」


「宮本武蔵と佐々木小次郎の戦った巌流島って知ってる? 壇ノ浦って、彼処の傍らしいよ」





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