アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 叔母は早速スイッチを入れた。

そのビデオの主役は川だった。
山奥から流れ出したホンの僅か水。
それが集まり、川になる。

その中に幾つかの特集が組み込まれている。
その一つがダムに沈む村だった。


『平家の落人伝説の村が、後数ヶ月で沈もうとしております』


「此処が私達の故郷よ」
ナレーターに続いて伯母が言う。


「えっ!? あのもしかして平家にゆかりがあるのですか?」

水野先生の言葉を聞いて、ロミオとジュリエットだったことを思い出していた。


(ヤバい……)
何故かそう思った。

だって水野先生の先祖は源氏側だったんだだから。




 「父の話だと、平家側に相当近いらしいよ」

伯母の言葉に顔色も変えずに水野先生はビデオを見ていた。


(あれーっ、何ともないの?)

私は拍子抜けを食らったような感覚になった。


(こう言うのを取り越し苦労って言うのかな?)

私と水野先生は敵同士の家柄だとばかり思っていた。
だからロミオとジュリエットだと思ったのだ。

だから……
だから不安だったんだ。


『叔父さんの居た離島では、平家の落人伝説があって……壇ノ浦の戦いで敗れた平家は散り散りになった。命からがら島に逃げたそうだ。叔父さんの居た離島もそうだった。渋谷で会った時そんな話が出て……』

水野先生はそう言った。


(そうだよ、水野先生はその離島に行こうとしているんだった。なあんだ。私が平家の出だとしても、気にすることはなかったんだ)

それが何を意味するかも知らないで、私はただホッとしていた。





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